従来比約2倍のねじ効率を実現。医療機器向け高精度すべりねじの開発事例
- 製作事例
精密な薬剤投与や微量制御が求められる医療機器分野において、駆動部の性能は製品価値を大きく左右します。
岩手大学発ベンチャーとしてマイクロアクチュエータ技術を強みに、独自性の高い製品開発を手がけてきた株式会社アイカムス・ラボ様もまた、医療現場の厳しい要求に応えるため、さらなる小型化と高効率化という課題に直面していました。
特に、薬剤投与ユニットの要となる小径すべりねじでは、「サイズは小さく、しかし効率は落とせない」という相反する条件を高いレベルで両立させる必要がありました。
その解決策として選ばれたのが、精密加工技術とねじ加工に強みを持つ弊社、三和ニードル・ベアリングとの協業です。
本記事では、医療機器開発の最前線で求められる精度と効率を、どのようにして実現したのか、アイカムス・ラボ様と三和ニードル・ベアリングによる共同開発の背景と成果、そして実用レベルにこだわったものづくりの裏側をご紹介します。
| 会社名 | 株式会社アイカムス・ラボ |
| 業界 | 医療機器・精密機構/マイクロメカトロニクス |
| 取組内容 | マイクロアクチュエータおよび応用製品の開発・製造・販売、精密機構の受託開発 |
| 会社HP | https://www.icomes.co.jp/ |
株式会社アイカムス・ラボについて
株式会社アイカムス・ラボ(以下、アイカムス・ラボ)は、岩手大学発のベンチャー企業として創業し、マイクロアクチュエータおよびその応用製品の開発・製造・販売を手がける精密機構メーカーです。
独自のマイクロ機構技術を強みに、医療・バイオ・研究分野向けの小型・高精度デバイスを中心に、自社製品開発から受託開発まで幅広く対応し、現場の作業性と信頼性を支えるものづくりに取り組んでいます。
アイカムス・ラボ様の取り組みと開発製品のご紹介

アイカムス・ラボ様は、医療機器の小型化・高性能化が進む中で重要性を増しているマイクロアクチュエータ技術を強みとし、医療・バイオ分野向けの駆動機構開発に取り組まれている企業です。
医療現場では、限られたスペースの中で「正確に動かす」「安定して制御する」ことが求められ、駆動部品の性能が装置全体の信頼性を大きく左右します。
そうした背景のもと、アイカムス・ラボ様は単なる部品開発にとどまらず、実際の医療現場で使われることを前提とした製品設計を重視し、独自のマイクロ機構技術を活かした開発を進めてきました。
ここでは、同社の取り組みと、今回ご紹介する開発製品について解説します。
- 開発製品『薬剤投与ユニット』について
- 医療機器における薬剤投与ユニットの役割
開発製品『薬剤投与ユニット』について

アイカムス・ラボ様が開発したのは、多様な粘性の薬剤に対応し、一定速度での吐出を可能にする「薬剤投与ユニット」です。
このユニットは、110×22×16 mmというコンパクトサイズながら最大250 N以上の高推力を実現し、医療用途で必要とされる精密な薬剤投与を可能にしています。
本製品には、アイカムス・ラボ様が得意とするマイクロアクチュエータによる押し出し方式が採用されており、カートリッジに充填された薬剤を高い精度で制御しながら吐出できます。
医療現場では、薬剤の性質に合わせた吐出スピードの調整や、一定速度での安定した投与が求められるため、こうした高推力・高精度のユニットが重要な役割を果たします。
医療機器における薬剤投与ユニットの役割
薬剤投与ユニットは、患者の安全と治療効果の両立を目的として、さまざまな医療機器に組み込まれています。
例えば、精密な薬液投与が必要な治療機器では、投与量や投与スピードの正確性が治療効果に直結します。吐出のムラや誤差があると、患者への負担や治療結果に影響を与えてしまう可能性があるため、高精度な制御機構は不可欠です。
また、コンパクトなユニットでありながら高推力を発揮できることは、小型化と高性能化が同時に求められる医療機器設計において大きな強みとなります。
そのため、薬剤投与ユニットは、患者の負担を最小限にしつつ、高い精度で薬剤を届けるためのコア技術として期待されています。
同社が抱える開発における課題とは?

薬剤投与ユニットの開発にあたり、アイカムス・ラボ様が直面していたのは、医療用途に求められる高精度な吐出性能を、限られたスペースの中でいかに実現するかという点でした。
理論上の性能だけでなく、実際の使用環境を想定したときに「安定して動作すること」「効率よく力を伝えられること」が不可欠であり、駆動機構そのものの見直しが求められていました。
とくに、薬剤投与の精度を左右する内部構造には、従来技術では解決しきれない複数の課題が存在していました。
- 課題① 従来のすべりねじではロスが多く非効率的
- 課題② 小型ユニット内で安定した推力と効率を両立する難しさ
課題① 従来のすべりねじではロスが多く非効率的
薬剤投与ユニットでは、モーターの回転運動を直線運動へと変換し、薬剤を押し出す構造が採用されています。
その駆動方式として一般的に使用されてきたのが「すべりねじ」でした。
しかし、すべりねじは構造上、摩擦によるエネルギーロスが大きく、入力した力を効率よく推力に変換できないという課題があります。
特に小型ユニットにおいては、限られた出力の中で十分な推力を確保する必要があり、すべりねじによるロスは性能面で大きな制約となっていました。
その結果、設計上は必要な推力を確保できても、実際の駆動効率や安定性の面で課題が残り、さらなる性能向上が求められていました。
課題② 小型ユニット内で安定した推力と効率を両立する難しさ
薬剤投与ユニットは、医療機器に組み込まれることを前提としているため、小型・軽量であることが強く求められます。
一方で、薬剤を安定して吐出するためには、一定以上の推力と高い効率が不可欠です。
この「小型化」と「高効率・高推力」という相反する要求を、実用レベルで両立させることが大きな課題となっていました。
理論値では性能が出ていても、実際のユニットサイズや使用条件を考慮すると、設計通りの性能を安定して発揮することは容易ではありません。
医療用途に耐えうる信頼性を確保するためには、単なる部品選定ではなく、駆動機構そのものを見直す必要性が明確になっていったのです。
その結果、従来は選別や組み替え作業が必要となり、工程負荷や品質安定性の面で課題を抱えていたのです。
三和ニードル・ベアリングへの依頼理由

薬剤投与ユニットの性能向上を目指す中で、アイカムス・ラボ様が重視していたのは、理論上の数値ではなく、実際の製品として安定して機能する駆動性能でした。
従来構造の延長では限界が見え始める中、駆動機構の根幹である「ねじ」の見直しが必要だと判断されました。
その検討の過程で浮かび上がったのが、三和ニードル・ベアリングとの協業という選択でした。ここからは、実際のインタビュー内容をもとに、アイカムス・ラボ様の視点でご紹介します。
- 従来のすべりねじでは実用レベルの効率に限界があった
- 少量ロットでも相談でき、構造から見直す提案力が決め手に
従来のすべりねじでは実用レベルの効率に限界があった
これまで薬剤投与ユニットには、一般的な他社製のすべりねじを使用していました。
しかし、実際に評価を進める中で、摩擦によるエネルギーロスが大きく、期待した効率が得られないという課題が明確になっていきました。
特に、小型ユニット内で十分な推力を確保しようとすると、入力エネルギーに対する出力効率の低さが設計の制約となり、性能向上の足かせになっていたのです。
医療用途として求められる安定性や再現性を考えると、従来のすべりねじ構造のままでは限界があると判断せざるを得ませんでした。
より高効率なねじを探し、他社にも相談したのですが、なかなか難しいという回答があったのも事実です…。
少量ロットでも相談でき、構造から見直す提案力が決め手に
そうした中で相談先として浮上したのが、精密部品加工に強みを持つ三和ニードル・ベアリングでした。
単に製品を供給するだけでなく、少量ロットでも開発段階から相談できる点、そして用途や目的に応じた最適な加工方法・構造の提案が得られる点が大きな魅力でした。
実際の打ち合わせでは、ねじ効率や推力といった数値面だけでなく、製品としての使い勝手や将来的な量産性まで見据えた提案があり、「一緒に製品を作り上げていくパートナー」として信頼できると感じたことが、依頼の決め手となりました。
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協業による成果|ねじ効率42.2%を実現し、製品性能を大きく向上

三和ニードル・ベアリングとの協業によって開発したすべりねじでは、動力伝達効率42.2%という成果を達成しました。
これは従来使用していたすべりねじ(約20%)と比較して、およそ2倍の効率向上にあたります。
当初の目標としていた30%を大きく上回る結果となり、社内でも非常に高い評価を得ました。
特に評価試験の段階では、効率の高さだけでなく、吐出の安定性や長期間使用した際の性能維持を重点的に確認していましたが、ユニットとして実運用を開始してからも大きな問題はなく、安定した稼働を続けています。
また、実際に製品を使用するお客様からのフィードバックも良好で、一定速度で安定して薬剤を吐出できる点について高い評価をいただいています。
単なる数値改善にとどまらず、医療機器として求められる「信頼性」「使いやすさ」の向上につながったことを、成果として実感しています。
まとめ|高効率すべりねじが切り拓く、次世代医療機器への可能性

今回の取り組みを通じて、アイカムス・ラボ様は高効率かつコンパクトな駆動機構が、製品性能に与える大きな可能性をあらためて実感されました。
従来技術では難しかった効率向上を実用レベルで実現できたことで、薬剤投与ユニットとしての完成度が高まり、医療機器としての信頼性向上にもつながっています。
アイカムス・ラボ様の今後の展望について、このように語っています。
「今後は、本製品で確立したコア技術を起点に、他の医療機器や関連分野への応用・新製品展開も視野に入れています。
その中で、すべりねじは性能を左右する重要な要素であり、今後も高効率・高精度を前提とした設計が求められる場面では、引き続き三和ニードル・ベアリングと連携していきたいと考えています。」
高効率なすべりねじを必要とする製品開発において、本事例は「理論値ではなく、実際に使える性能」を追求するひとつの指針となるはずです。
医療分野に限らず、限られたスペースで高効率な駆動を求める製品開発に携わる方にとって、今回の協業事例がヒントとなれば幸いです。