金属熱処理とは?焼入れ・焼戻し・焼なましなど代表的な種類を解説

  • 加工技術

金属熱処理は、鉄や鋼といった金属材料に加熱・冷却の工程を加えることで、硬さや靭性、耐摩耗性などの特性を変化させる加工技術です。自動車部品や工具、建材など、用途に応じてさまざまな処理方法があるため、各熱処理方法の特徴や用途、効果を正しく理解することで、製品の性能向上や最適な加工工程の選定に役立ちます。

この記事では金属熱処理の仕組みや代表的な加工方法について、加工メリットやデメリットと合わせて解説します。

金属熱処理とは

金属熱処理とは

金属熱処理とは、金属への加熱・冷却を組み合わせることで、金属の硬さや靭性、強度などの性質を変化させる加工技術です。 例えば、自動車に使われる鉄鋼材料のうち、1/4程度は熱処理が施されており、ものづくりには欠かせない技術です。

金属熱処理は「赤めて冷やす」と言われ、製品性能や信頼性、寿命に大きく関わる重要な工程です。強度向上や加工性向上、残留応力除去などを目的として行われます。

金属熱処理の加工方法

金属熱処理の加工方法

金属熱処理は、加熱方法と冷却方法によって性質が大きく変化します。そのため、赤め方と冷まし方の組み合わせから、いくつかの熱処理方法に分けられます。
ここでは金属熱処理の大まかな加工工程について解説します。

  1. 加熱方法
  2. 冷却方法
  3. 使用される鋼材の例

加熱方法

加熱の際は、炉を800〜1,000℃程度に加熱します。一般的な鋼は、約700°Cで「変態」という性質変化が始まり、オーステナイトという軟らかい組織に変化します。

変態加熱方法には以下のような手段があります。

電気炉加熱 高精度な温度制御
誘導加熱 短時間で加熱可能
バーナー加熱 コストパフォーマンスに優れる

冷却方法

加熱した金属を約550°Cまで冷却すると、オーステナイトから硬いマルテンサイトという組織に変化します。マルテンサイトは硬さがあるうえ、オーステナイトよりも金属組織が細かく均質になっているのが特徴です。

そして、加熱して冷却する速度により、金属の最終的な性質が決まります。冷却には以下のような種類があります。

急冷(水冷・油冷) 高硬度を得られるが、変形や割れのリスクあり
徐冷(空冷・炉冷) 応力除去や軟化が目的。形状安定性に優れる

使用される鋼材の例

以下は、金属熱処理が用いられる鋼材の一例です。

ステンレス鋼 耐食性と強度に優れる(SUS420J2・SUS410・SUS440Cなど)
炭素鋼 汎用性が高い(S45C・S50C・SCM440など)
工具鋼 高硬度・耐摩耗性が高い(SKD11・SKH51・SKS3など)

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熱処理の種類

熱処理の種類

熱処理は、金属全体に行う場合と表面のみに行う場合があります。ここでは、金属熱処理の大まかな分類とその目的と具体的な処理方法について解説します。

まず、金属熱処理には大きく「全体熱処理」と「表面熱処理」に分けられます。全体熱処理は、金属全体に熱処理を施す加工方法で、一般熱処理と特殊熱処理があります。

一般熱処理:金属の硬さや靭性、内部組織を調整

熱処理名 主な目的 加熱 冷却
焼入れ 硬化処理 高温 水冷・油冷
焼戻し 靭性の付与 低温・高温 空冷・炉冷
焼なまし 軟化・応力除去 中温~高温 炉冷
焼ならし 均一組織化 高温 空冷
時効硬化 析出硬化 低温・高温保持 空冷

特殊熱処理:特定の用途向け

熱処理名 主な目的 加熱 冷却
固溶化熱処理 組成均一化 高温 水冷
サブゼロ処理 残留オーステナイト除去 焼入れ後に液体窒素等で急冷

表面熱処理は、金属の表面のみを硬化または改質処理する加工方法です。内部は軟らかさを保つことで、強度と加工性の両立を図ります。

表面硬化熱処理

熱処理名 主な目的 加熱 冷却
表面焼入れ 局所的硬化処理 高温 水冷・油冷
浸炭焼入れ 表面硬化と芯部靭性の両立 高温 水冷・油冷

表面改質熱処理

熱処理名 主な目的 加熱 冷却
表面窒化処理 窒素拡散による硬化 低温 空冷
表面潤滑処理 摩擦低減 個別に対応 個別に対応
表面改善処理 表面特性の最適化 個別に対応 個別に対応

焼入れ(硬化処理)

焼入れとは、鋼材を850〜950℃程度に加熱した後、水や油などで急冷することで、金属の硬度や耐摩耗性を高める熱処理方法です。

炭素鋼や工具鋼などによく用いられ、切削工具や歯車、軸受部品などの高負荷部品に広く使用されます。

焼入れの特徴【メリット】

  • 強度が通常の2~3倍向上する
  • 硬度が高く摩耗にも強くなる

焼入れの注意点【デメリット】

  • 急冷加工時に歪みや割れのリスクがある
  • 材質や加工方法により靭性(粘り強さ)が低下して脆くなることがある

焼戻し(靭性の付与)

焼戻しとは、焼入れによって硬化した金属を再度加熱・冷却することで、硬度を適度に下げつつ、靭性(粘り強さ)を回復させる処理です。焼入れと組み合わせて実施されることが一般的です。

高温焼戻しは、約450~650℃で再加熱・冷却する金属熱処理が行われ、低温焼戻しは約100~200℃で再加熱・冷却する金属熱処理で行われます。

焼戻しの特徴【メリット】

  • 強度と靭性のバランスが調整できる
  • 金属に靭性を付与して割れや欠けが予防できる
  • 内部応力除去により加工時のスプリングバックなどを抑制して寸法安定性が向上

焼戻しの注意点【デメリット】

  • 慎重な温度管理が必要
  • 素材の条件に合った処理を行わないと、逆に硬度が低下する可能性がある

焼なまし(軟化・応力除去)

焼なましとは、500〜750℃の炉で金属がオーステナイトになるまで加熱を行い、炉内でゆっくりと冷却してパーライトという組織構造にする加工方法です。金属を軟らかくしたり、金属組織を均一化させる目的で行われ、曲げや穴あけ加工前の素材に適用されます。

焼なましの特徴【メリット】

  • 加工性が向上して加工工具の寿命が延びやすい
  • 冷却時に残留応力が除去されてひずみが出にくくなる
  • 後工程の精度向上が期待できる

焼なましの注意点【デメリット】

  • 材質の強度・硬度が低下する
  • 炉冷により処理時間が長くなる
  • 精密加工の場合再熱処理が必要なことがある

焼ならし(均一組織化)

鋼の組織を微細かつ均一化するための熱処理方法です。焼なましと似ていますが、冷却ではなく空冷を行って、一定の強度と靭性を保ちます。

焼ならしの特徴【メリット】

  • 結晶組織が均一になり性質が安定する
  • 空冷のため炉冷よりも処理時間が早い

焼ならしの注意点【デメリット】

  • 焼なましよりもやや加工性が劣る
  • 素材が大きい場合冷却速度が異なり組織差が出ることがある
  • 精密加工の場合再熱処理が必要なことがある

時効硬化(析出硬化)

一定温度で長時間保持することで微細な析出物を生成し、硬度や強度を高める熱処理方法です。軽量で高強度が求められる部品に用いられます。

時効硬化の特徴【メリット】

  • 時間の経過により強度・硬度が向上する
  • 加工後の部品に寸法変化を起こさず硬化できる

時効硬化の注意点【デメリット】

  • 加工時間が必要で生産性が下がる
  • 析出可能な金属にしか使えない
  • 微細構造の変化により寸法変化起きる可能性がある

サブゼロ処理

サブゼロ処理とは、焼入れ後の鋼材を-100℃以下など極低温にさらすことで、残留オーステナイトをマルテンサイトへ変態させる熱処理方法です。高精度部品や長寿命を求められる工具鋼やベアリング鋼などに広く活用されています。

サブゼロ処理の特徴【メリット】

  • 残留オーステナイト除去により寸法安定性が向上
  • 焼入れだけの場合よりも高硬度

サブゼロ処理の注意点【デメリット】

  • 液体窒素など特殊な低温設備が必要となり設備コストが高い
  • 材質や形状によって熱応力による割れリスクがある

浸炭・窒化処理(表面硬化)

浸炭処理や窒化処理は、金属表面に炭素または窒素を拡散浸透させて、表層部のみを硬化させる熱処理法です。ギアやシャフトなど負荷が高い機械部品に用いられます。

浸炭・窒化処理の特徴【メリット】

  • 表面の耐摩耗性・疲労強度が向上
  • 芯部は靭性を保つため、衝撃や曲げに強い

浸炭・窒化処理の注意点【デメリット】

  • 芯部は硬化されない
  • 厚肉部品では効果が限定的
  • 加工コストが高くなる傾向

金属熱処理のまとめ

金属熱処理のまとめ

金属熱処理は、素材の強度・硬度・靭性といった物性を自在にコントロールできる重要な技術です。焼入れ・焼戻し・焼なましなどの基本処理に加え、サブゼロ処理や表面硬化処理(浸炭・窒化)を組み合わせることで、製品に最適な機械的特性を付与できます。

三和ニードルベアリングは、研削加工をコア技術とした超精密加工に強みがあります。サブミクロン(10000分の1mm)精度で加工を行うために、用途や目的に応じて適切な熱処理の選定を行います。材料や業界などを問わず対応可能ですので、金属加工でお困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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