SUS440Cとは?高硬度ステンレス鋼の性質や用途をわかりやすく解説
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SUS440Cとは、焼入れ・焼戻しによって高い硬度を得られる、高炭素のマルテンサイト系ステンレス鋼です。耐摩耗性と一定の耐食性を備え、ベアリング部品やシャフト、ピン、ゲージ、刃物などに使用されます。
本記事では、SUS440Cの性質や規格、成分、強度、硬度、靭性、耐食性、熱処理の考え方を整理し、代表的な用途やSUS440A・SUS440Bとの違い、加工時の注意点までわかりやすく解説します。
SUS440C(高硬度ステンレス鋼)とは?

SUS440Cは、JISで規定されるマルテンサイト系ステンレス鋼の一種で、熱処理によって高硬度化できる材料です。
ここでは、SUS440Cがどのような鋼種なのかを押さえたうえで、材料特性を左右する成分について解説します。
- SUS440Cは高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼
- SUS440Cの成分
SUS440Cは高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼
SUS440Cは、炭素を0.95~1.20%含む高炭素のマルテンサイト系ステンレス鋼です。焼入れによって硬いマルテンサイト組織を形成し、焼戻しで硬度を調整することで、高い強度と耐摩耗性を得られます。そのため、摩耗や接触荷重が生じる精密部品に適しています。
一方、高硬度化すると靭性や加工性が低下する傾向があるため、必要硬度だけでなく、衝撃荷重や使用環境も含めた材料選定が重要です。
SUS440Cの成分
SUS440Cでは、炭素(C)とクロム(Cr)が材料特性に大きく関わります。炭素は焼入れ後の硬度や耐摩耗性を高め、クロムはステンレス鋼としての耐食性や焼入れ性に寄与する元素です。JISの規格範囲では、Cは0.95~1.20%、Crは16.00~18.00%とされています。
実際の成分値には製鋼ロットによる差があるため、設計・発注時には適用規格やミルシート(鋼材検査証明書)で確認することが大切です。
| 元素 | 規格範囲(mass%) | 主な役割 |
|---|---|---|
| C | 0.95~1.20 | 硬度・耐摩耗性に関係 |
| Si | 1.00以下 | 脱酸などに使用 |
| Mn | 1.00以下 | 脱酸・焼入れ性に関係 |
| P | 0.040以下 | 不純物として管理 |
| S | 0.030以下 | 不純物として管理 |
| Ni | 0.60以下 | 必要に応じて含有 |
| Cr | 16.00~18.00 | 耐食性・焼入れ性に関係 |
| Mo | 0.75以下 | 必要に応じて含有 |
SUS440Cの4つの特性

SUS440Cの特性は、「機械的特性」「物理的特性」「耐食性」「被削性」の4つに分けると整理しやすくなります。
ここでは、設計時の材料選定や加工工程の検討に関わる、それぞれの特徴を解説します。
- 機械的特性
- 物理的特性
- 耐食性
- 被削性
1. 機械的特性
SUS440Cは、焼入れ・焼戻しによって高い硬度を得やすく、耐摩耗性にも優れます。所定の熱処理によってHRC58以上の硬さが期待でき、高い接触面圧を受ける部品や摺動部で摩耗を抑えたい場合に有効です。このため、ベアリング部品、シャフト、ピン、刃物、工具などに採用されることがあります。
なお、焼入焼戻しを行う場合には、引張強さや伸びなどの規定がないため、硬度以外の強度や靭性が必要な場合は、熱処理条件や個別の材料データをもとに確認することが重要です。
2. 物理的特性
SUS440Cの物理的特性は、加工時の寸法変化や熱の影響を考えるうえで重要です。代表値として、焼なまし状態の密度は7.78g/cm³、0~100℃の線熱膨張係数は10.2×10⁻⁶/℃、100℃での熱伝導率は24.3W/(m・K)とされています。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼のため磁性を持ちます。精密部品では、これらの特性を踏まえ、加工時や測定時の温度変化も考慮する必要があります。
| 項目 | 代表値 | 設計・加工上の見方 |
|---|---|---|
| 密度・比重 | 約7.7 | 一般的な鋼材と同程度 |
| 線膨張係数 | 約10×10⁻⁶/K | SUS304より小さい |
| 熱伝導率 | 約24W/(m・K) | 加工熱に注意 |
| ヤング率 | 約200GPa | 一般的な鋼材と同程度 |
| 磁性 | あり | 非磁性用途には不向き |
3. 耐食性
SUS440Cはクロムを16.00~18.00%含むため、一般的な焼入鋼より耐食性に優れています。一方、高い耐食性を特徴とするSUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼と比べると、耐食性は劣ります。
SUS440Cは耐食性だけを優先する材料ではなく、高硬度や耐摩耗性との両立が求められる用途に適した鋼種です。そのため、材料選定では使用する液体や雰囲気など、腐食環境も確認する必要があります。
4. 被削性
SUS440Cの被削性は、熱処理前後で大きく変わります。焼なまし状態では旋削や穴加工などの切削加工が可能ですが、高炭素の材料であるため工具への負荷には注意が必要です。さらに、焼入れ後はHRC58以上まで高硬度化できるため、通常の切削工具では加工が難しくなります。
このように、SUS440Cは材料の熱処理状態によって加工のしやすさが異なることから、製品形状と必要精度を踏まえて加工工程を設定する必要があります。
SUS440Cが選ばれる代表的な用途

SUS440Cは、高い硬度と耐摩耗性に加え、一定の耐食性が必要な部品で選ばれます。代表例には、ベアリング部品、シャフトやピン、測定・検査ゲージ、刃物や工具があり、用途ごとに求められる性能は異なります。
- ベアリング部品
- シャフト・ピン
- 測定・検査ゲージ
- 刃物・工具
ベアリング部品
ベアリング部品では、転動体と軌道面が繰り返し接触するため、摩耗や圧痕を抑える高い硬度が必要です。摩耗が進むと寸法や形状が変化し、回転精度の低下や振動、騒音につながります。
SUS440Cは熱処理によって高硬度と耐摩耗性を得やすく、さらに一般的な軸受鋼より耐食性を確保しやすい点が特徴です。このため、耐食性も求められるベアリングの転動体や軌道部などに使用されます。
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シャフト・ピン
シャフトやピンには、外径寸法、真円度、表面粗さなどの精度に加え、摺動や回転による摩耗を抑える性能が求められます。SUS440Cは焼入れで高硬度化できるため、位置決めや回転を担う精密部品の候補となります。
一方、細長い部品では熱処理による曲がりや寸法変化にも注意が必要です。粗加工から熱処理、必要に応じた矯正、研削までを見据えて工程を設計することで、要求される精度につなげます。
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測定・検査ゲージ
測定・検査ゲージは、長期間繰り返し使用しても基準寸法や形状を維持できることが重要です。測定面が摩耗すると合否判定そのものに影響するほか、錆の発生も寸法精度を損なう原因になります。
SUS440Cは高硬度と耐摩耗性を得やすく、一般的な工具鋼より耐食性も確保しやすいため、ゲージや基準となる精密部品に使用される場合があります。使用頻度や保管環境を踏まえ、必要な硬度と仕上げ精度を設定することが大切です。
刃物・工具
刃物や工具では、刃先が摩耗しにくい高い硬度と、使用中の腐食を抑える一定の耐食性が求められます。SUS440Cは焼入れによって高硬度化できるため、刃物やカッターなどに採用される材料です。
ただし、硬度を高めれば常に有利になるわけではなく、衝撃荷重が大きい条件では欠けや割れへの配慮が必要になります。刃先形状や使用条件に応じ、必要な硬度と靭性のバランスを取って材料や熱処理条件を選定します。
SUS440Cと代表的な400系ステンレス鋼との違い

400系ステンレス鋼には、焼入れによって硬度を高められるマルテンサイト系と、熱処理ではほとんど硬化しないフェライト系の両方があり、熱処理による硬化のしやすさや硬度、耐摩耗性などの特性が異なります。SUS440Cは、400系の中でも高い硬度と耐摩耗性を得やすいマルテンサイト系ステンレス鋼です。
ここでは、代表的な400系ステンレス鋼について、マルテンサイト系とフェライト系に分けて特徴を解説します。
- マルテンサイト系の400系ステンレス鋼の特徴
- フェライト系の400系ステンレス鋼の特徴
マルテンサイト系の400系ステンレス鋼の特徴
マルテンサイト系の400系ステンレス鋼の代表的な鋼種には、次のようなものがあります。
| SUS410 | 焼入れによって硬度や強度を高められ、耐食性や機械加工性にも優れる。シャフトやバルブなどの機械部品に使用される。 |
| SUS420J2 | SUS410より炭素量が多く、高い硬度や耐摩耗性を得やすい。刃物や機械部品などに使用される。 |
| SUS440C | SUS420J2よりさらに炭素量が多く、焼入れにより特に高い硬度と耐摩耗性を得やすい。ベアリングや刃物、精密機械部品などに使用される。 |
SUS440Cは、同じマルテンサイト系の中でも特に高い硬度を得やすいことが特徴です。
ただし、高硬度化すると加工が難しくなる傾向があるため、高硬度材に適した工具や加工条件の選定、研削加工による仕上げなどが必要になります。
フェライト系の400系ステンレス鋼の特徴
フェライト系の400系ステンレス鋼の代表的な鋼種には、次のようなものがあります。
| SUS430 | 焼入れによる高硬度化には不向きだが、成形加工しやすく耐食性にも優れる。厨房用品や建築内装、自動車部品などに使用される。 |
高い硬度や耐摩耗性が必要な場合にはSUS440Cなどのマルテンサイト系が候補となります。
一方、SUS430などのフェライト系は、熱処理によって硬化することがほとんどなく、一般的に焼なまし状態で使用されます。
SUS440Cの加工時の注意点

SUS440Cは、高硬度・高耐摩耗性を活かせる一方、加工時には熱処理前後の状態、工具摩耗、熱処理変形、最終仕上げに注意が必要です。
ここでは、切削から熱処理、研削へつなぐ工程で押さえたいポイントを解説します。
- 焼入れ後は加工が難しくなる
- 切削加工では工具摩耗に注意する
- 研削加工で寸法精度や表面粗さを整える
焼入れ後は加工が難しくなる
SUS440Cは焼入れによって高硬度化するため、熱処理後は通常の切削加工が難しくなります。無理に切削すると工具への負荷が大きくなり、工具寿命の低下だけでなく、加工時間やコストの増加にもつながります。
そのため、穴や溝、段差などは可能な範囲で焼入れ前に加工することが基本です。さらに、焼入れでは曲がりや寸法変化が生じる可能性があるため、仕上げ代を残し、熱処理後に最終寸法へ仕上げる工程を検討します。
切削加工では工具摩耗に注意する
焼入れ前のSUS440Cを切削する場合も、工具摩耗や加工熱、仕上げ面の荒れに注意が必要です。工具摩耗が進んだまま加工を続けると、切削抵抗が増えて寸法ばらつきや表面品質の低下を招く可能性があります。
工具の種類や切削速度、送り、切込み、クーラントなどを加工形状に合わせて設定し、工具寿命を管理することが重要です。長尺のシャフトでは、切削抵抗によるたわみも考慮して保持方法や加工順序を決めます。
研削加工で寸法精度や表面粗さを整える
焼入れ後のSUS440Cでは、最終仕上げに研削加工を用いて外径寸法、真円度、円筒度、表面粗さを整える場合があります。特にシャフトやピン、ベアリング部品では、わずかな寸法差や表面状態の違いが摺動性や回転精度、摩耗に影響します。
一方、研削条件が適切でないと、加工熱による焼けや表面品質の低下を招く可能性があります。砥石の種類、切込み量、送り量、ドレッシング、冷却条件などを管理しながら仕上げることが重要です。
| 管理項目 | 確認すべき内容 | 品質への影響 |
|---|---|---|
| 砥石の種類 | 材質や硬度に合った砥石を選定する | 研削効率、表面粗さ、砥石摩耗に影響する |
| 切込み量 | 一度に削る量を適切に設定する | 加工熱、焼け、寸法精度、表面品質に影響する |
| 送り量 | 工作物や砥石の送り速度を調整する | 面粗さ、加工時間、研削ムラに影響する |
| ドレッシング | 砥石表面の目立てや形状修正を行う | 切れ味、研削抵抗、表面粗さの安定性に影響する |
| 冷却条件 | 研削液の供給量、供給位置、冷却性を確認する | 加工熱、焼け、変色、熱変形の抑制に影響する |
SUS440Cに関するよくある質問(FAQ)

SUS440Cの選定にあたっては、得られる硬度の目安や耐食性の限界、採用時のメリット・デメリットについて疑問を持つ方も少なくありません。
ここでは、硬度、耐食性、メリット・デメリットに関するよくある質問に回答します。
Q1. SUS440Cの硬度はどのくらいですか?
Q2. SUS440Cは錆びますか?
Q3. SUS440Cのメリットとデメリットは何ですか?
Q1. SUS440Cの硬度はどのくらいですか?
SUS440Cの硬度は熱処理条件によって変わりますが、焼入れ・焼戻し後にHRC58以上程度になるのが一般的です。ステンレス鋼の中でも特に高いHRC硬度を狙える鋼種で、条件によってはHRC60前後まで到達する場合もあります。
ただし、必要以上に高い硬度を指定すると、靭性や加工コストにも影響する可能性があります。そのため、図面指定や発注時には材料名だけでなく、部品の使用条件から必要な硬度範囲を決め、熱処理条件と合わせて確認することが重要です。
Q2. SUS440Cは錆びますか?
SUS440Cはステンレス鋼ですが、使用環境によっては錆びます。クロムを含むため一般的な焼入鋼より耐食性は高いものの、SUS304やSUS316などのオーステナイト系ステンレス鋼ほど耐食性を重視した材料ではありません。
水分や塩分が付着する環境などでは腐食する可能性があるため、使用条件の確認が必要です。錆の発生を極力避けたい部品では、必要な硬度や耐摩耗性とのバランスを見ながら、別のステンレス鋼も含めて検討します。
Q3. SUS440Cのメリットとデメリットは何ですか?
SUS440Cのメリットは、熱処理によって高い硬度と耐摩耗性を得やすく、一般的な焼入鋼より耐食性も確保しやすい点です。一方、高硬度化すると加工が難しくなり、靭性や熱処理後の仕上げ、加工コストへの配慮が必要になります。
また、耐食性を最優先する環境では、ほかのステンレス鋼が適する場合もあります。摩耗、荷重、腐食環境、必要精度を整理し、材料特性と加工工程の両面から選定することが重要です。
SUS440Cのまとめ

SUS440Cは、高い硬度と耐摩耗性、一定の耐食性を備えたマルテンサイト系ステンレス鋼です。材料の性能を活かすには、使用環境や荷重に応じた熱処理条件を設定し、熱処理後の変形や仕上げ精度まで見据えて工程を設計する必要があります。
三和ニードル・ベアリングでは、SUS440Cを含むステンレス材について、多数の加工実績やノウハウがあり、切削、熱処理、研削、検査まで社内一貫で対応しています。材質の提案も可能ですので、ステンレス材を用いた精密部品の加工でお困りの際は、お気軽にご相談ください。