SUS420J2とは?特徴や用途とマルテンサイト系ステンレス鋼としての性質を解説
- 材料関連
SUS420J2は、焼入れによって硬度と強度を高められるマルテンサイト系ステンレス鋼に分類される金属材料です。耐摩耗性に優れているため、シャフトやバルブなどの機械部品、刃物や工具に用いられます。一方、耐食性はオーステナイト系ステンレス鋼より低く、熱処理後は硬さが増すため、切削や研削などの加工方法にも注意が必要です。
本記事では、SUS420J2の材料特性やJIS規格上の位置づけ、SUS440Cとの違い、代表的な用途、加工時の注意点などについて解説します。
SUS420J2とは

SUS420J2は、JIS(JIS G 4303)で規定されるマルテンサイト系ステンレス鋼の一種です。焼入れ・焼戻しなどの熱処理によって硬度や強度を高められ、耐摩耗性が求められる部品にも使用されます。
ここでは、SUS420J2の材料としての位置づけと、同じマルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS440Cとの違いを解説します。
- SUS420J2の意味
- SUS440Cとの違い
SUS420J2の意味
SUS420J2は、炭素(C)を0.26~0.40%、クロム(Cr)を12.00~14.00%含むマルテンサイト系ステンレス鋼で、記号の「J」は日本独自の鋼種を示します。焼入れによって組織を変化させ、焼戻しによって用途に応じた硬度や靭性に調整可能です。
耐食性は一般的な焼入鋼より優れますが、比較的炭素を多く含むためオーステナイト系やフェライト系のステンレス鋼には劣ります。
SUS440Cとの違い
SUS420J2とSUS440Cは、どちらも焼入れ・焼戻しによって硬化できるマルテンサイト系ステンレス鋼です。SUS420J2の炭素量が0.26~0.40%であるのに対し、SUS440Cの炭素量は0.95~1.20%と高く、高い硬度や耐摩耗性が求められる用途に使われます。
一方、SUS420J2はSUS440Cほどの高硬度を必要としない用途で、必要な硬度や耐食性、加工性、コストなどを総合的に考慮して選定されます。
【関連記事】
SUS440Cとは?高硬度ステンレス鋼の性質や用途をわかりやすく解説
SUS420J2の主な特徴

SUS420J2は、焼入れによって硬度を高められるマルテンサイト系ステンレス鋼です。焼入れ・焼戻しによって高い強度と耐摩耗性を得やすく、磁性を持つことも特徴です。
ここでは、材料選定で押さえておきたい3つの特徴を解説します。
- 焼入れによって硬度を高められる
- 高い強度と耐摩耗性を得やすい
- 磁性を持つ
1. 焼入れによって硬度を高められる
SUS420J2は、焼入れ・焼戻しなどの熱処理によって硬度を高められる材料です。焼入れによって硬化するため、熱処理条件を設定することで用途にあわせた硬さに調整できます。
この性質を活かして自動車部品や工具、医療用器具をはじめ、摺動部品や金型部品など、使用時に硬さが求められる用途に利用されています。
【関連記事】
SUS420J2の硬度はどのくらい?焼入れ後の硬度目安や熱処理条件を解説
2. 高い強度と耐摩耗性を得やすい
SUS420J2は、適切な熱処理によって高い強度と耐摩耗性を得やすい点も特徴です。摩擦や繰り返し接触を受ける部品では、摩耗による寸法や形状の変化が性能や寿命に影響します。
そのため、シャフトやバルブ、ノズル、金型部品など、強度や耐摩耗性が求められる用途にも適しています。
3. 磁性を持つ
SUS420J2はマルテンサイト系ステンレス鋼であり、磁性を持つ材料です。SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼は、固溶化熱処理状態では基本的に非磁性ですが、SUS420J2は磁石に反応します。
なお、SUS304も加工によって弱い磁性を持つ場合があるため、磁性を避ける必要がある部品では、材質だけでなく加工条件も含めて検討することが重要です。
SUS420J2のJIS規格上の分類

SUS420J2は、JISで規定されるマルテンサイト系ステンレス鋼の一つです。同じ系統でも炭素量やクロム量が異なるため、焼入れ後の硬度や耐摩耗性などに差があります。
ここでは、SUS420J2の位置づけと化学成分を確認します。
- SUS420J2の位置づけ
- SUS420J2の化学成分
SUS420J2の位置づけ
同じマルテンサイト系ステンレス鋼でも、炭素量など組成の違いによって熱処理後に得られる硬度や耐摩耗性が異なります。鋼種を選定する際は、硬度に加えて、耐食性や加工性、部品形状、使用環境なども含めた検討が重要です。
SUS420J2は、SUS410やSUS420J1より炭素量が多く、焼入れ後に高い硬度を得やすい鋼種です。一方、SUS440Cほど炭素量は高くありません。
| 鋼種 | 炭素量(C) | 主な特徴 | 選定の目安 |
|---|---|---|---|
| SUS410 | 0.15%以下 | 比較的炭素量が少なく、耐食性や加工性とのバランスを取りやすい | 一般用途の代表的なステンレス鋼。硬度よりも、耐食性や加工性を重視する場合 |
| SUS420J1 | 0.16~0.25% | 日本独自の鋼種。焼入れによって硬化できる | SUS410より高い硬度が必要で、加工性も考慮したい場合 |
| SUS420J2 | 0.26~0.40% | 日本独自の鋼種。SUS420J1より高い硬度や耐摩耗性を得やすい | 硬度や耐摩耗性を高めつつ、加工性や耐食性とのバランスも取りたい場合 |
| SUS440C | 0.95~1.20% | 炭素量が多く、より高い硬度や耐摩耗性を得やすい | 加工性よりも、高い硬度や耐摩耗性を優先する場合 |
SUS420J2の化学成分
SUS420J2の主な化学成分は以下のとおりです。
- C(炭素):0.26~0.40%
- Si(ケイ素):1.00%以下
- Mn(マンガン):1.00%以下
- P(リン):0.040%以下
- S(硫黄):0.030%以下
- Ni(ニッケル):―(0.60%を超えてはならない)
- Cr(クロム):12.00~14.00%
- Mo(モリブデン):―
成分のうち、炭素は焼入れ後の硬度に関わり、クロムはステンレス鋼の耐食性に関わります。SUS420J2はSUS420J1より炭素を多く含むため、ステンレス鋼としての耐食性を持ちながら、熱処理によって硬度や耐摩耗性が高められる組成です。
SUS420J2の用途

SUS420J2は、耐食性に加えて、熱処理後の硬度や強度、耐摩耗性が求められる部品に使われます。
代表的な用途は次のとおりです。
| 用途 | 主な使用部位・部品例 | 選ばれる主な理由 |
|---|---|---|
| シャフト・バルブ部品 | 回転軸、摺動部、バルブ軸など | 強度、耐摩耗性、耐食性 |
| 医療用器具 | メス、穿刺針など | 高硬度、耐摩耗性 |
| ノズル・ポンプ部品 | ノズル先端、摺動部、軸部など | 摩耗による寸法変化を抑えやすい |
| プラスチック金型部品 | 金型の成形部、摺動部など | 硬度、耐摩耗性、耐食性 |
| 刃物・工具 | カッター、はさみ、各種刃物など | 刃先の硬さ、耐摩耗性を確保しやすい |
シャフトやバルブ部品
SUS420J2は、回転や摺動を伴うシャフトの軸部や、バルブの軸などに使用されます。これらの部品は、繰り返し接触することで摩耗すると、寸法精度や機能の低下につながります。
SUS420J2は焼入れによって硬度や耐摩耗性を高められるうえに、耐食性も備えているため、これら機械部品の材料として用いられています。
【関連記事】
シャフトの摩耗とは?種類ごとの原因や対策と長寿命設計に活かすコツ
SUS(ステンレス)シャフトの研削加工事例を紹介!要求される精度と設計時の注意点とは
医療用器具
SUS420J2は、医療用の刃物など、鋭利な先端や刃部を持つ器具に使用されます。こうした部分では、刃先や先端形状を維持するための硬度や耐摩耗性が必要です。
焼入れによって高い硬度を得られることから、切れ味や耐久性が求められる医療用器具に採用されています。
【関連記事】
医療機器用シャフトとは?高精度加工が求められる理由や材質・加工技術を紹介
ノズルやポンプ部品
SUS420J2は、ノズルなど摩耗が生じやすい部品に使用されます。また、ポンプではモーターシャフトなどへの採用例があります。流体に接する部品や回転・摺動する部品では、摩耗による寸法変化が性能に影響するため、熱処理によって硬度や耐摩耗性を高められる点が重要です。
プラスチック金型部品
SUS420J2系の材料は、プラスチック金型の成形部などに使用されます。金型は成形を繰り返す過程で摩耗や腐食の影響を受けるため、形状や表面状態を維持できる硬度、耐摩耗性、耐食性が重要です。
焼入れ・焼戻しによって高硬度化できることから、これらの性能が求められる金型材料として利用されています。
刃物や工具
SUS420J2は、カッター刃や医療用刃物など、刃先に硬さが求められる刃物や工具に使用されます。刃先が摩耗すると切れ味や加工精度が低下するため、硬度と耐摩耗性の確保が重要です。
SUS420J2は焼入れによって高硬度化でき、刃付け加工にも対応しやすいことから、各種刃物の材料に用いられています。
SUS420J2を加工するときの注意点

SUS420J2は、焼入れによって高硬度化するため、熱処理の前後で加工性が大きく変わります。また、熱処理による反りや寸法変化も考慮し、必要に応じて研削などの仕上げ工程を組み込むことが重要です。
ここでは、SUS420J2を加工する際に押さえておきたい3つのポイントを解説します。
- 焼入れ前後で加工性が変わる
- 熱処理による変形に注意する
- 研削加工や仕上げ加工が必要になる場合がある
焼入れ前後で加工性が変わる
SUS420J2は、焼入れ前後で硬度が大きく変化するため、適切な加工方法も変わります。焼入れ前は比較的切削加工しやすい一方、焼入れ・焼戻し後は高硬度化し、切削工具の摩耗や加工負荷が増えやすくなります。
そのため、高い精度が必要な部品では、焼入れ前に切削加工でおおまかな形状を作り、熱処理後に研削加工で最終寸法へ仕上げるなど、硬度の変化を見越して工程を設計することが重要です。
熱処理による変形に注意する
SUS420J2は、焼入れ・焼戻しの加熱や冷却、組織変化によって、反りや曲がり、寸法変化などが発生する場合があります。特に薄肉部品や細長い部品は変形の影響を受けやすく、熱処理条件や保持方法、冷却条件などの管理が重要です。
高い寸法精度が求められる場合は、熱処理による変形量を見込み、後工程で削るための仕上げ代を残しておくなど、熱処理後の加工まで考慮して工程を組み立てます。
研削加工や仕上げ加工が必要になる場合が多い
焼入れ後のSUS420J2は高硬度となるため、所定の寸法精度や表面粗さを得るために、研削加工や仕上げ加工が必要になる場合があります。研削加工は高硬度材にも対応しやすく、熱処理によるわずかな歪みや寸法変化を補正しながら高精度に仕上げられる加工方法です。
特にシャフトやピンなど、外径寸法だけでなく真円度や円筒度、表面粗さが要求される部品では、熱処理後の研削工程が最終精度を左右します。そのため、切削加工、熱処理、研削加工を個別に考えるのではなく、要求精度から逆算して加工順序や仕上げ代を設定することが重要です。
SUS420J2に関するよくある質問

SUS420J2では、耐食性やSUS304との違い、価格について気になることがあります。
ここでは錆びの発生やSUS304との違い、価格変動のポイントについて回答します。
Q1. SUS420J2は錆びますか?
Q2. SUS420J2とSUS304の違いは何ですか?
Q3. SUS420J2の価格は何で変わりますか?
Q1. SUS420J2は錆びますか?
SUS420J2はステンレス鋼ですが、使用環境によっては錆びが生じます。
一般にSUS420J2の耐食性は、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼よりも低く、湿気や塩分などの影響を受ける環境で使用する場合には防錆管理や表面処理が必要なことがあります。
【関連記事】
ステンレスとは?特徴・種類・錆びにくい理由をくわしく解説
Q2. SUS420J2とSUS304の違いは何ですか?
SUS420J2とSUS304の大きな違いは、金属組織と熱処理による硬化の可否、磁気特性です。SUS304はオーステナイト系で耐食性に優れ、一般的な焼入れで硬化させる材料ではありません。また、通常は非磁性ですが、加工によって磁性を帯びる場合があります。
一方、SUS420J2はマルテンサイト系で常時磁性を持ち、焼入れ・焼戻しによって高い硬度や耐摩耗性を得られます。
【関連記事】
SUS304の精密加工とは?加工特性や精度限界・設計時のポイントを解説
Q3. SUS420J2の価格は何で変わりますか?
SUS420J2の価格は、材料形状、寸法、数量、市況に加え、熱処理や加工内容によって変わります。焼入れ後に高い寸法精度や表面粗さが必要な場合は、研削や仕上げ工程も価格に影響します。
見積もりでは、材質、寸法、必要硬度、数量、公差、表面粗さ、納期などを伝えることが重要です。
SUS420J2のまとめ

SUS420J2は、焼入れ・焼戻しによって高い硬度や強度、耐摩耗性を得られるマルテンサイト系ステンレス鋼です。加工では、熱処理後の硬度上昇や変形を考慮し、切削から熱処理、研削までを含めた工程設計が重要になります。
三和ニードル・ベアリングでは、SUS420J2をはじめとする各種ステンレス鋼の加工実績があり、切削、熱処理、研削、検査まで社内一貫生産が可能です。試作1個から量産まで対応していますので、材料選定や熱処理後の精度、研削加工でお困りの際は、図面段階からお気軽にご相談ください。