オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工は難しい?加工硬化の原因と対策を解説
- 加工技術
ステンレス鋼の中でも、オーステナイト系ステンレス(SUS)は耐食性に優れ、幅広い分野で使用されています。しかし、加工中に材料が硬くなる加工硬化によって、想定した精度や加工性が得られないことも少なくありません。
このような加工トラブルを防ぐためには、材料特性を理解したうえで、加工硬化を前提とした工具選定や加工条件、工程設計を行うことが重要です。
本記事では、オーステナイト系ステンレス(SUS)の基礎知識から、加工硬化の原因、現場での影響、具体的な対策までをわかりやすく解説します。
【関連記事】
ステンレスとは?特徴・種類・錆びにくい理由をくわしく解説
オーステナイト系ステンレス(SUS)とは?

オーステナイト系ステンレス(SUS)とは、非磁性で耐食性と延性に優れ、最も広く使用されているステンレス鋼の一種です。
一方で、加工時に加工硬化を起こしやすく、切削加工の難易度が高いという特徴も持っています。
ステンレス鋼は用途や特性に応じて複数の種類に分類されますが、その中でもオーステナイト系は汎用性が高く、多くの機械部品や設備で採用されています。
ただし、耐食性や加工性といった特性は鋼種ごとに大きく異なるため、分類や特徴を正しく理解することが重要です。
この章では、ステンレスの種類とオーステナイト系の位置づけ、代表鋼種、そして加工硬化の特徴について解説します。
- ステンレス(SUS)の種類
- オーステナイト系ステンレス(SUS)の代表鋼種
- 加工硬化を起こしやすいステンレス(SUS)の種類
ステンレス(SUS)の種類
ステンレス鋼は主に、オーステナイト系・マルテンサイト系・フェライト系・二相系(オーステナイト・フェライト系)・析出硬化系の5種類に分類されます。
それぞれ強度や耐食性、磁性、加工性が異なり、用途に応じて使い分けられています。
| 分類 | 主な特徴 | 強度 | 耐食性 | 磁性 | 加工性 | 調達コスト |
| オーステナイト系 | 耐食性・延性に優れ非磁性 | ◯ | ◎ | なし | △ | △ |
| マルテンサイト系 | 焼入れにより高硬度を得られる | ◎ | △ | あり | ◯ | ◯ |
| フェライト系 | 熱膨張が小さく耐応力腐食割れ性に優れる | ◯ | ◯ | あり | ◎ | ◎ |
| オーステナイト・フェライト系(2相系) | 高強度と耐食性を両立 | ◎ | ◎ | あり | △ | △ |
| 析出硬化系 | 熱処理により高強度を発現 | ◎ | ◯ | あり | △ | × |
この中でもオーステナイト系ステンレス(SUS)は、耐食性と延性に優れ、非磁性であることから最も広く使用されている材料です。
一方で、切削加工時には加工硬化が起こりやすく、条件によっては弱い磁性を帯びることもあるため、加工の難易度が高くなる傾向があります。
オーステナイト系ステンレス(SUS)の代表鋼種
オーステナイト系ステンレス(SUS)は、同じ分類であっても添加元素の違いによって特性が大きく変わります。
そのため、用途や要求性能に応じた材料選定が不可欠です。
代表的な鋼種としては、以下のようなものがあります。
| 鋼種 | 分類 | 主な特徴 | 添加元素 | 主な用途 |
| SUS304 | 汎用材 | 耐食性と加工性のバランスに優れる | Cr、Ni | 食品機械、建材、一般機械部品 |
| SUS316 | 耐食性強化材 | 耐孔食性・耐食性に優れる | Cr、Ni、Mo | 医療機器、海洋機器、化学装置 |
| SUS303 | 快削材 | 被削性に優れ切削加工しやすい | Cr、Ni、S | 精密部品、シャフト、ねじ部品 |
このように、同じオーステナイト系でも特性は大きく異なるため、加工性や精度要求を踏まえた選定が重要になります。
加工硬化を起こしやすいステンレス(SUS)の種類
ステンレス鋼の中でも、加工時に材料が急激に硬化する加工硬化を起こしやすいのはオーステナイト系ステンレス(SUS)です。
このため、同じ条件で加工すると工具寿命が短くなったり、加工精度が安定しないといった問題が発生します。特にSUS304やSUS316などは加工硬化の影響を受けやすく、適切な加工条件の設定が重要です。
ステンレス(SUS)の加工で加工硬化が起きる原因

加工硬化とは、切削や塑性変形によって材料が徐々に硬くなっていく現象です。
オーステナイト系ステンレス(SUS)ではこの現象が特に起こりやすく、加工を進めるほど切削抵抗が増し、結果として加工難易度を高める要因になります。
では、なぜオーステナイト系ステンレスはここまで加工硬化しやすいのでしょうか。主な要因を順に見ていきます。
- 原因1:面心立方格子(FCC構造)による変形特性
- 原因2:加工誘起マルテンサイトの変態
- 原因3:転位の蓄積と加工熱の影響
原因1:面心立方格子(FCC構造)による変形特性
オーステナイト系ステンレス(SUS)は、面心立方格子(FCC構造)と呼ばれる結晶構造を持っています。
これは立方体の各頂点と各面の中心に原子が配置された構造で、金属の中でも比較的変形しやすい特徴があります。
一見すると加工しやすいように思えますが、実際にはこの「変形しやすさ」が加工硬化の起点になります。
切削や塑性変形によって結晶構造にひずみが生じると、そのひずみが内部に蓄積され、材料は徐々に硬くなっていきます。
つまり、変形しやすい構造であるがゆえに、ひずみが溜まりやすく、結果として硬化しやすいという性質を持っているのです。
原因2:加工誘起マルテンサイトの変態
オーステナイト系ステンレス(SUS)では、加工時の塑性変形によって一部の組織がマルテンサイトへと変化することがあります。
これを「加工誘起マルテンサイト」と呼びます。
この変形が起こると、材料の硬さが急激に増加し、切削時の抵抗が大きくなります。その結果、工具への負荷が増え、摩耗の進行や加工精度の低下につながることがあります。
また、この変化に伴い、本来は非磁性であるオーステナイト系ステンレス(SUS)が、わずかに磁性を帯びることも特徴のひとつです。
特に冷間加工や強い加工負荷がかかる条件では、この現象が顕著に現れます。
原因3:転位の蓄積と加工熱の影響
切削加工では、結晶内部に「転位」と呼ばれる微細なズレが発生します。
この転位が増え、互いに絡み合うことで、材料は変形しにくくなり、結果として硬化が進んでいきます。
さらにステンレス(SUS)は熱伝導率が低いため、加工時に発生した熱が逃げにくく、局所的に蓄積しやすい特徴があります。
この熱の影響によって材料温度が上昇すると、加工状態が変化し、加工硬化がさらに進行する要因となります。
このように、転位の蓄積による内部構造の変化と、熱の影響が重なることで、オーステナイト系ステンレスは特に加工硬化しやすい材料となっています。
加工硬化が与える影響

オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工硬化は、単に材料が硬くなるだけでなく、工具や加工条件、最終的な仕上がり品質にまで影響を及ぼします。
そのため、加工硬化を理解していないと、思わぬトラブルにつながることも少なくありません。
ここでは、加工現場で特に問題になりやすい代表的な影響について見ていきます。
- 工具摩耗の増加
- 切削抵抗の上昇
- 表面粗さの悪化
- 寸法精度の低下
工具摩耗の増加
加工硬化が進むと、材料表面が徐々に硬くなり、工具が常に“より硬い材料”を削る状態になります。その結果、工具への負荷が増加し、摩耗の進行が早まります。
特に切削工具の刃先は影響を受けやすく、わずかな条件の違いでも急激に劣化することがあります。刃先の摩耗が進むと切れ味が低下し、さらに加工硬化を助長するという悪循環に陥るケースも見られます。
また、工具交換の頻度が増えることで段取り時間が増加し、生産効率の低下やコスト増加にもつながります。
切削抵抗の上昇
材料が硬化すると、工具が材料を削る際の抵抗が大きくなり、加工に必要な力が増加します。この切削抵抗の上昇は、加工そのものの安定性に大きく影響します。
例えば、負荷が増加することでびびりや振動が発生しやすくなり、結果として加工面の品質や寸法精度が乱れる原因になります。
さらに、無理な条件で加工を続けると工具破損のリスクも高まります。
そのため、オーステナイト系ステンレスの加工では、加工硬化を前提とした切削条件の設定が不可欠です。
【関連記事】
シャフトの切削加工は難しい?設備や精度管理から外注選びまで解説
表面粗さの悪化
加工硬化が進行すると、工具は材料を「削る」というよりも「擦る」ような状態になりやすくなります。この状態では切削がうまく行われず、加工面に微細な傷やムラが残るため、表面粗さが悪化します。
特に仕上げ工程ではこの影響が顕著に現れ、Raなどの粗さを一定以下に抑えることが難しくなるケースがあります。
高精度な仕上がりが求められる部品では、加工硬化による影響をどれだけ抑えられるかが品質を左右します。
【関連記事】
研削加工における表面粗さ(Ra・Rz)とは?図面指示と仕上げ精度のコツ
寸法精度の低下
切削抵抗の増加や振動(びびり)の発生により、寸法精度も安定しにくくなります。加工中のわずかな負荷変動が寸法のばらつきとして現れやすく、狙い通りの精度を維持するのが難しくなります。
さらに、加工時に発生する熱によって材料が膨張したり、加工後に収縮したりすることで、測定タイミングによって寸法が変わることもあります。
精密部品ではμm単位の誤差が性能に直結するため、こうした加工硬化の影響を踏まえた対策が不可欠です。
【関連記事】
シャフトの公差が厳しすぎる?加工できない原因と解決方法を解説
オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工対策

加工硬化の影響を抑えるためには、単に条件を調整するだけでなく、材料特性を前提にした工程設計と加工条件の最適化が重要になります。
特にオーステナイト系ステンレス(SUS)では、加工中に材料が変化することを前提に考える必要があります。
ここでは、実際の加工現場で有効な対策について見ていきます。
- 加工硬化層を前提とした工程検討
- 工具選定と切削条件の最適化
- 磁性の変化に注意する
加工硬化層を前提とした工程検討
オーステナイト系ステンレス(SUS)を加工すると、表面には加工硬化によって硬くなった層が形成されます。この硬化層の存在を考慮せずに加工を進めると、思うように切削が進まない原因になります。
例えば、浅い切込みで何度も削ろうとすると、硬化した層をなぞるだけの状態になり、結果として加工効率が低下し、さらに硬化を助長することもあります。
そのため、工程設計の段階で仕上げ代を適切に設定し、加工硬化層よりも深い位置までしっかり切り込む前提で加工条件を組むことが重要です。
加工は一工程ごとに完結しているのではなく、前工程の影響を受けているという視点が求められます。
工具選定と切削条件の最適化
加工硬化層を安定して切削するためには、工具選定と切削条件の設定が大きなポイントになります。特に重要なのは、硬化層を確実に切り込めるだけの切込み量を確保することです。
切込みが不足すると硬化層を削りきれず、工具が材料表面を擦る状態になりやすく、摩耗の進行や仕上がり品質の悪化につながります。
こうした問題を防ぐためには、耐摩耗性に優れたコーティング工具を選定するとともに、送り速度や切削速度を適切に設定し、安定した切削状態を維持することが重要です。
また、切削油を適切に使用することで発熱を抑え、加工中の状態変化を最小限に抑えることも有効です。加工硬化の影響は完全に避けることはできませんが、条件設計によってその影響をコントロールすることは可能です。
【関連記事】
切削加工の精度とは?限界値や高精度な加工に必要なポイントを解説
磁性の変化に注意する
オーステナイト系ステンレス(SUS)は本来非磁性ですが、加工によりマルテンサイト化すると磁性を帯びる場合があります。これは材料特性による変化で一般機械部品では問題にならないこともありますが、用途によっては注意が必要です。
設計段階でこの特性を理解し、必要に応じて対策を講じることが重要です。磁性が問題になりやすいのは以下のような場合です。
- センサー・精密機器周辺:磁気センサーの誤作動、位置検出精度のずれ
- 医療機器(MRIなど):磁場の影響を受ける
- 半導体・電子部品製造装置:微細な磁気ノイズが不良の原因になる
- ソレノイド・電磁機器:磁気回路に影響を与える
オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工でよくある質問

オーステナイト系ステンレス(SUS)は、耐食性や延性に優れる一方で、加工硬化や発熱の影響を受けやすく、一般的な鋼材とは異なる加工上の注意点があります。
ここでは、現場でよく挙がる疑問について、ポイントを押さえて整理します。
Q1. オーステナイト系ステンレス(SUS)はなぜ切削しにくいと言われるのですか?
Q2. オーステナイト系ステンレス(SUS)の小径シャフトを加工する際の注意点は何ですか?
Q3. オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工は切削と研削のどちらが適していますか?
Q1. オーステナイト系ステンレス(SUS)はなぜ切削しにくいと言われるのですか?
加工中に加工硬化が進み、材料が硬くなるため、切削抵抗が増加しやすいからです。さらに、熱伝導率が低く切削熱が逃げにくいため、工具刃先に熱と負荷が集中しやすくなります。
その結果、工具摩耗が早まり、条件が安定しにくくなるため、一般的な鋼材と比べて加工難易度が高く感じられます。
Q2. オーステナイト系ステンレス(SUS)の小径シャフトを加工する際の注意点は何ですか?
たわみや振れを抑えて剛性を確保しつつ、加工硬化層を確実に切り込むことが重要です。小径シャフトは変形しやすいため、センター支持や振れ止めを活用し、安定した加工状態をつくる必要があります。
また、浅い切込みを繰り返すと硬化層を擦る状態になりやすいため、適切な切込み量を確保し、加工硬化層の内側を削る意識が求められます。
【関連記事】
小径シャフトの高精度加工とは?製作事例から精度と設計のコツを紹介
Q3. オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工は切削と研削のどちらが適していますか?
粗加工は切削、仕上げ精度が求められる場合は研削を組み合わせるのが一般的です。切削加工は能率よく形状を作るのに適していますが、μm単位の公差や高い表面粗さが求められる場合には限界があります。
そのため、精密部品では研削仕上げを前提とした工程設計が採用されることが多く、最終的な精度は研削工程で作り込むケースが一般的です。
【関連記事】
研磨加工と研削加工は違いが分かりにくい?使い分けと設計時のコツ
まとめ|オーステナイト系ステンレス(SUS)は加工硬化に注意

オーステナイト系ステンレス(SUS)は優れた耐食性を持つ一方で、加工硬化により加工難易度が高くなる材料です。適切な工具選定や工程設計を行うことで、安定した加工が可能になります。
三和ニードル・ベアリングでは、サブミクロン精度を実現する研削加工をコア技術として、切削・熱処理を含めた社内一貫生産に対応しています。オーステナイト系ステンレス(SUS)の加工でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。